2026年8月、ZETA DIVISIONがEWC Overwatchで優勝した。
準決勝ではT1を3-0で下し、グランドファイナルではTwisted Mindsを4-2で撃破。ZETA DIVISIONとして初めてOverwatchの国際大会で世界王者となり、Shuが大会MVPに選ばれた。
今回のZETAは強かった。
Properのトレーサーは相変わらず理不尽だった。Viol2tのジェットパック・キャットは、サポートという役割を超えて試合全体を動かしていた。Shuは他チームがほとんどアナを使わない環境でアナを使い続け、阻害瓶とスリープによって相手の攻撃を何度も止めた。
BernarとKnifeも、それぞれの役割を高い水準でこなし、Proper、Viol2t、Shuが作った有利を確実に勝利へ変換していた。
しかし、今回の優勝を「スター選手の個人技が強かった」で終わらせるのはもったいない。
個人技を抑えて連携するようになったのではない。
連携によって、一人ひとりの個人技が次の個人技につながるようになった。
これが、今回のZETAに起きた最大の変化だったと思う。
そして、この変化はパリで突然起きたものではない。OWCCで崩れ、その直後に始まったKorea Stage 2の初戦でT1に敗れたところから、今回の優勝までの物語はつながっている。
前回の記事で書いた「勝ちすぎたZETA」
OWCC終了後、私は「ZETAはなぜ立川で崩れたのか」という記事を書いた。
そこで立てた仮説は、ZETAが弱かったから崩れたのではなく、むしろ再構築直後から勝ちすぎてしまったため、チームの問題が見えにくくなっていたのではないか、というものだった。
ZETAはなぜ立川で崩れたのか 無敗が隠した課題、CRの再構築、TMの“自分たちの正解" - ikatechxの日記
2026年のZETAはBernarを残し、Proper、Knife、Shu、Viol2t、Mealgaruを迎え、コーチ陣も含めて大きく作り直されたチームだった。
普通の再構築チームは、負けながら課題を見つけていく。誰が判断するのか。誰のコールを優先するのか。不利になったとき、いつ構成を変更するのか。誰の強みを中心に試合を組み立てるのか。
こうした問題を、敗北や不安定な試合を通じて整理していく。
しかしZETAは、再構築直後から勝ててしまった。
本来なら落としていた可能性のあるファイトをProperがクラッチでひっくり返す。ポジションや連携が崩れてもShuが耐える。試合のテンポがずれてもViol2tが個人の判断で成立させる。
最終的に勝つため、チームには成功体験が残る。
前回の記事では、これを次のように書いた。
勝利は強い麻酔になる。
痛みを消してくれるが、怪我そのものを治してくれるわけではない。
無敗は、もちろん強さの証明である。しかし勝っている限り、間違った判断まで成功体験として保存されやすい。
普通のチームなら赤信号と判断する場面でも、無敗のチームには黄色信号に見える。ZETAは完成されていたから課題がなかったのではなく、未完成なままでも勝てるほど選手が強かったため、その未完成さが見えにくかったのではないか。
それが前回の記事の中心的な仮説だった。
立川で麻酔が切れた
OWCCで、ZETAはCrazy RaccoonとTwisted Mindsに連敗し、3位で大会を終えた。
TM戦ではYoubiのシンメトラを中心とした構成に苦しみ、Properの最後のクラッチでも試合を戻し切れなかった。TMはシンメトラのTPによって距離と角度を壊し、Quartzを最も火力の出る場所へ運ぶという、自分たち固有の勝ち方を押し通していた。
一方のZETAは、相手に対する「正しい回答」を探しすぎていたように見えた。
相手がラッシュを使う。それならメイで分断する。相手が特定のタンクを出す。それなら理論上有利なタンクへ変更する。
一つひとつの判断には理由がある。しかし、その結果としてProperが連携依存度の高いメイを担当し、ShuとViol2tも相手の攻撃を受ける役割に回った。
世界最高クラスの選手たちが、自分から試合を壊すのではなく、構成上の「正しい役割」をこなすことに追われていた。
前回の記事では、この違いを次のように整理した。
ZETAはスターの価値を構成に合わせた。
TMは構成をスターの価値に合わせた。
そして記事の最後に、ZETAが次へ進むための条件として、「Properを非常ボタンではなく、主砲として使えるチームになれるか」と書いた。
今回のEWCでZETAが見せたものは、その問いに対する回答だったように思う。
本当の再構築は、Stage 2初戦のT1戦から始まった
OWCCの敗北だけなら、「世界大会でたまたま調子が悪かった」と処理することもできた。
しかし、その直後に始まったKorea Stage 2の初戦で、ZETAはT1に2-3で敗れた。
T1はZETAに対して非常によく準備していた。ZETAの構成に対して明確な回答を用意し、ZETAがピックを変更しても、その変更へさらに対応した。
ここで重要なのは、結果が一敗増えたことではない。
立川で見えた問題が、形を変えてもう一度現れたことである。
相手に対応しようとして構成を変える。しかし変更するほど、自分たちが何をして勝つチームなのかが曖昧になる。最後はProperのクラッチに頼る。
Properは活躍している。しかし、攻撃計画の中心として使われているのではなく、崩れた試合を救う非常ボタンになっている。
さらにZETAは、Stage 2のシード決定戦でもT1に0-3で敗れた。ところがRegional Playoffsでは、同じT1を4-1で破った。
そしてEWC準決勝では、再びT1を3-0で下した。
Stage 2初戦の2-3。
シード決定戦の0-3。
Regional Playoffsの4-1。
EWC準決勝の3-0。
この推移を見ると、T1はZETAにとって単なるライバルではなく、チームの改善度を測る基準だったように思える。
ZETAの再構築はOWCCで必要性が判明し、T1への連敗によって本格的に始まった。
Properは「非常ボタン」から攻撃計画の中心になった
EWCのZETAは、Properの個人技に頼らなくなったわけではない。むしろ、以前より積極的にProperの個人技を使っていた。
ただし、その使い方が変わった。
以前はチームファイトが崩れた後に、Properがトレーサーでワンピックを取り、無理やり試合を戻していた。今回のZETAは、最初からProperが敵の後方へ入ることを前提に動いていた。
Properがサポートへ圧をかける。
敵のD.Vaがバックラインへ戻る。
サポートが生存のためにスキルを使う。
正面の圧力が下がる。
その瞬間にBernarとKnifeがエリアを取り、Shuが遠距離から回復と火力を通す。
これはProperが単独で試合を救う構造ではない。
Properが作った混乱を、チーム全体で勝利へ変換する構造である。
Properのトレーサーは、単にキルを取るためのヒーローではない。相手の視線を割り、サポートのリソースを使わせ、タンクを後ろへ戻す。
相手が本来行いたかった攻撃より先に、守備の判断を強制する。
以前のProperは、チームの問題を個人技で隠していた。
今回のProperは、個人技によって相手チームの問題を作っていた。
Viol2tの猫は、サポートではなくゲームメーカーだった
ただし、今回のZETAをProperだけで説明することはできない。むしろチーム構造を最も大きく変えたのは、Viol2tのジェットパック・キャットだったのではないかと思う。
猫は当初、猫バス構成の部品として注目された。バスティオンを有利な射線まで運び、危険になったら回収し、空中から回復して火力を維持する。
もちろん、それだけでも十分に強い。
しかし今回のZETAは、猫を単なるバスティオン運搬装置として使わなかった。
Viol2tの猫は、敵フランカーを索敵し、Properを侵入位置まで運び、危険になった味方を回収する。空中から回復しながら、ブープで敵の陣形を崩し、高台から排除し、自らファイトを始める。
相手の視線とリソースを吸収し、追撃や環境キルまで狙う。
もはやサポートという役割の範囲に収まっていない。
第2のフランカーであり、イニシエーターであり、偵察役であり、味方を運ぶモビリティ装置でもある。それらをすべて行いながら、回復までしている。
特に強力だったのが、Properのトレーサーとの組み合わせだった。
Properが後方へ入る。Viol2tが別の角度から敵を確認し、ブープし、視線を集める。
Properを追えばViol2tが自由になり、Viol2tを追えばProperが自由になる。どちらも機動力が高く、簡単には捕まらない。
さらに猫は、Properを安全な角度まで運び、危険になれば回収できる。相手からすると、トレーサーと猫という二つの処理しにくい存在が、異なる角度から同時に襲ってくる。
その二人へ対応している間に、Bernar、Knife、Shuが正面を取る。
これはDPSとサポートの連携というより、
ProperとViol2tを、一つの攻撃ユニットとして運用した。
と表現する方が近い。
Viol2tのブリギッテも、決勝でTMのD.Vaを拒否する有効な回答だった。しかし、ブリギッテは今回のZETAの中心ではない。
中心にあったのは、あくまで猫である。
猫をネコバスの専用部品から解放し、Viol2t自身に試合の場所、速度、角度を決めさせた。それが、今回のZETAに起きた最も大きな変化の一つだった。
Shuは「メタの正解」ではなく、自分のアナを選んだ
もう一つ、今回の優勝を象徴していたのがShuのアナだった。
大会全体ではキリコを中心とした構成が目立つ中、Shuはアナを継続して使用した。他チームがほとんどアナを使わない環境で、ZETAだけがShuのアナをチームの中心に置いていた。
この判断には、Korea Stage 2のプレーオフ前にコーチとして加入したTwilightの存在があった。
Twilightは選手時代からアナを代表的なヒーローとしてきた人物である。Shuに対しても、自分のアナは最高なのだから、自信を持って使い続けた方がいいという趣旨の助言をしたという。
周囲がキリコを使っているから。一般的なメタではそちらが正しいとされているから。
そうした理由だけで、自分が最も高い価値を出せるヒーローを降りる必要はない。
相手に攻略されたと証明されるまでは、自分のアナを信じればいい。
これは単なるヒーロー選択の助言ではない。OWCCでのZETAは、相手やメタに対する正しい答えを探すうちに、Proper、Shu、Viol2tの最大値を抑えてしまった。
Twilightの助言は、それとは逆である。
環境の正しさに選手を合わせるのではなく、
その選手にしか出せない最大値を、チームの正解にする。
Properにはトレーサーで壊させる。
Viol2tには猫で盤面全体を動かさせる。
Shuには、他のチームが使っていなくても、世界最高クラスのアナを使わせる。
ZETAはメタを無視したわけではない。最終的な判断基準を、「一般的に正しいか」から「自分たちが最も強くなるか」へ戻したのである。
しかし、Shu自身が最初から迷いなくアナを使えていたわけではない。
TM戦後のインタビューでShuは、自分だけがアナを使っていたため、自分たちが間違っているのではないか、またOWCCのように崩れてしまうのではないかと不安になり、試合中に指が震えたという趣旨の話をしていた。
このエピソードが重要なのは、「Twilightに自信を持てと言われたから不安が消えた」という単純な美談ではないからだ。
Shuは怖かった。
また失敗するかもしれないと思っていた。
それでもアナを降りなかった。
自信とは、迷わないことではない。
迷いながらも、自分たちの答えを捨てないことなのかもしれない。
そしてShuのアナは、TMのまとまった突入へ阻害瓶を入れ、D.VaやDPSの侵入をスリープで止め、最終的に大会MVPを獲得した。
ZETAは相手の「構成」ではなく「勝ち筋」を壊した
OWCCでのZETAは、TMのシンメトララッシュに対して、構成そのものへの回答を探していたように見えた。
しかし、TMのシンメトラは単体で完結するヒーローではない。
TPで接敵までの時間を消し、ルシオで全員の速度を同期する。キリコで突入後の生存を保証し、Quartzをキャスディやソジョーンが最も火力を出せる位置まで運ぶ。
つまり、TMの本当の勝ち筋は「シンメトラが強い」ことではない。
シンメトラを使ってQuartzを通し、5人の意思決定を一つにまとめること。
OWCCでは、ZETAはその構造を壊し切れなかった。
EWC決勝では違った。
BusanではルシオをBANし、TMの接敵速度とFunnyAstroのイニシエートを奪った。ColosseoではキリコをBANし、突入後の生存保証と上下方向への追従力を削った。
Route 66ではシンメトラをBANし、TPによる位置変更そのものを消した。
Neon JunctionのハルトBANなど、すべてのBANがTMへ致命傷を与えたわけではない。実際、TMは代替可能なタンクBANなら乗り越えている。
クリティカルだったのは、ルシオ、キリコ、シンメトラという、TMのシステムを成立させる部品を消したことだった。
ZETAはTMの全ヒーローへカウンターを当てようとしたのではない。TMがどのように距離を詰め、誰を通し、何によって突入後のファイトを保証しているのかを分解した。
立川では、相手のピックに回答しようとしていた。
パリでは、相手の勝ち筋を理解し、その成立条件を壊していた。
Eichenwaldeでは「捨てBAN」でも勝った
決勝最後のEichenwaldeも、今回のZETAの強さを象徴していた。
ZETAは3-2でリードしており、あと1マップで優勝という状況だった。TMが選んだEichenwaldeで、ZETAがBANしたのはバスティオンだった。
しかし、このマップではバスティオンがいなくても、ソジョーンやキャスディで十分に長い射線を使える。ZETAも猫バスだけでなく、トレーサー、D.Va、ラマットラ、マウガなど複数の構成を持っていた。
さらにZETAは、このマップを落としても、最終マップを自分たちで選び、温存していた重要なBANを使用できる立場にあった。
そのため、バスティオンBANはEichenwaldeを絶対に取りにいく勝負BANというより、
重要なBAN資源を温存し、低コストのBANで勝利を試す。
という判断だったように見える。
一方のTMは、Bernarがこのマップで使う可能性の低そうなザリアをBANした。
猫をBANすれば、Properの運搬、回復、索敵、ブープ、イニシエート、Shuへの支援をまとめて制限できた。アナBANでZETAの守備を崩す選択肢もあった。
しかしTMは、実際にZETAの中心となっていた猫やアナではなく、出てくるかどうか分からないザリアを消した。
結果としてZETAは、大きな勝負BANを使うことなく、TMのマップピックを取って4-2で優勝した。
もちろん、BANだけで勝ったわけではない。
むしろ重要なのは、BANによる明確な構成有利がなくても、ZETAが個人技と連携でTMを上回れたことである。
個人技頼みをやめたのではない
今回のZETAを、「個人技頼みをやめて、連携のチームになった」と表現するのは少し違うと思う。
ZETAは個人技を捨てていない。Proper、Viol2t、Shu、Bernar、Knifeの個人技は、今回も勝利の中心だった。
変わったのは、個人技が孤立しなくなったことだ。
Properが作った混乱をViol2tが広げる。Viol2tが集めた視線をShuが利用する。Shuが作った体力差や阻害をProperとKnifeが回収する。
Bernarが相手タンクの移動を止め、全員が動ける空間を作る。
以前は、個人技がチームの失敗を消していた。
今回は、一人の個人技が次の選手の個人技を発動させていた。
個人技か、連携か、ではない。
連携によって個人技を連鎖させるチームになった。
これが、OWCCからEWCまでの間にZETAが行った最大の改善なのだと思う。
勝ちすぎたチームは、負けることで自分たちの勝ち方を覚えた
2026年のZETAは、最初から強かった。
むしろ強すぎた。
再構築直後にもかかわらず勝ち続け、Properのクラッチ、Shuの安定感、Viol2tのゲームセンスによって、多くの問題を勝利の中へ隠してしまった。
OWCCでCRとTMに負け、その麻酔が切れた。しかし、その直後のT1戦でも問題は解決していなかった。
相手へ対応するためにピックを変える。変更するほど自分たちの勝ち方が不鮮明になる。最後はProperが救おうとする。
さらにT1に0-3で負けた。
そこからZETAは変わった。
Properを非常ボタンではなく、攻撃計画の中心に置いた。
Viol2tの猫をネコバスの運搬役から解放し、索敵、運搬、回復、ブープ、イニシエート、環境キルまで担う万能のゲームメーカーとして使った。
Shuには、周囲が使っていなくても、自分のアナを信じさせた。
相手のピックへ場当たり的に対応するのではなく、相手の勝ち筋を分解して壊した。
そしてT1を4-1、3-0で破り、OWCCで敗れたTMを4-2で倒した。
前回の記事では、「Properを非常ボタンではなく主砲として使えるか」と書いた。
今回、その答えは出たと思う。
ただし正確には、Proper一人を主砲にしただけではない。
ProperのトレーサーとViol2tの猫を一つの攻撃ユニットにした。Shuのアナを、その攻撃ユニットを支えながら自ら試合を動かす中核にした。
BernarとKnifeを、三人が作った有利を最も確実に回収する役割にした。
ZETAは、スター選手をチームの中へ収めることをやめた。
スター選手たちの強みが連鎖するように、チームの方を作り直した。
勝ちすぎていたZETAは、負けることで初めて、自分たちの勝ち方を見つけた。そしてパリで初めて、その答えを最後まで信じ切ったのだ。
